Beautiful Life ?
「責めているわけじゃない。妻が亡くなってからずっと葛藤していた。リアのことを思えばもっと早くに再婚するべきでもあっただろうが、しない方が彼女のためでもあると思っていた。でもそんなものは言い訳で、俺自身が、年々妻の記憶が薄れていくのが怖くて女性を遠ざけていたところもあった」
辻合の話に真剣に耳を傾けながらも、絵里は顔を上げることができなくてじっとテーブルクロスを見つめていた。
「でも君がウチにやってきて、毎日顔を合わせているうちにあっという間に俺の長年の頑なだった心の鎖が消えたような気がした。あっという間に心を攫われたよ」
「ごめんなさい、私……!」
「どうして謝る?」
まっすぐな視線を感じて、絵里は恐る恐る顔を上げた。辻合はふっきれたような清々しい表情をしていた。
「君のおかげでまた一歩、踏み出せた」
「ううん、私は何も。だって私は……!」
絵里は自分を責め唇を噛みしめた。
自分も辻合と同じ気持ちだった。惹かれて、思わせぶりな態度だっていっぱいとったのに、臆病な気持ちが辻合の想いを裏切って絵里は黙って一人日本へ逃げるようにして帰ったのだ。
「君が黙って日本に帰ったのは、きっと君が俺が想像もつかないような傷を心に抱えていて、その傷を癒すだけの器が俺にはなかったというだけだ」
「そんなことない! 違……」
「そういうことにしておけよ」
辛い表情を浮かべる絵里とは対照的に、辻合は終始落ち着いていた。いたずらに笑って見せる余裕すらあるようだ。
「俺が振られたってことにしておいてやるって言っているんだから、そういうことにしておこう」
辻合は一方的に「さぁ、この話はもうおしまい」と言いメニュー表を絵里に手渡した。絵里は呆然とした様子でメニュー表を受け取った。
でも少しずつ、じわりじわりと辻合の心の広さと優しさが伝わってきた。絵里は目を閉じて、震える唇を噛みしめて深く頷いた。そして、
「再婚、おめでとう」
心からの祝福の言葉を辻合におくることが出来た。心の中がすっきりと、軽くなったような気がした。
オーダーした料理を待つ間、二人は目前に広がる夜景を眺めていた。
「ねぇ。奥さんになる人、どんな人なの?」
「気持ちのいい人だよ。明るくてサバサバしていて……今日実は連れてきているのだけど、きっと今頃、リアと外に遊びに出てる」
「そっかぁ。会ってみたかった」
「会いに来いよ。また、ニューヨークに」
その言葉に、絵里はやっとこの日はじめていつも通りの自然な笑みを辻合に見せることができた。
「えぇ、もちろん。言ったでしょ? 絶対にまた遊びに行くって」
「断わられても来るって言ってたよな」
「うん、あはは!」
「その時は、君の隣にも誰かいるといいな」
「そうね。頑張るわ」
目を合わせて微笑みあうと再び夜景に目を向けた。
辻合の話に真剣に耳を傾けながらも、絵里は顔を上げることができなくてじっとテーブルクロスを見つめていた。
「でも君がウチにやってきて、毎日顔を合わせているうちにあっという間に俺の長年の頑なだった心の鎖が消えたような気がした。あっという間に心を攫われたよ」
「ごめんなさい、私……!」
「どうして謝る?」
まっすぐな視線を感じて、絵里は恐る恐る顔を上げた。辻合はふっきれたような清々しい表情をしていた。
「君のおかげでまた一歩、踏み出せた」
「ううん、私は何も。だって私は……!」
絵里は自分を責め唇を噛みしめた。
自分も辻合と同じ気持ちだった。惹かれて、思わせぶりな態度だっていっぱいとったのに、臆病な気持ちが辻合の想いを裏切って絵里は黙って一人日本へ逃げるようにして帰ったのだ。
「君が黙って日本に帰ったのは、きっと君が俺が想像もつかないような傷を心に抱えていて、その傷を癒すだけの器が俺にはなかったというだけだ」
「そんなことない! 違……」
「そういうことにしておけよ」
辛い表情を浮かべる絵里とは対照的に、辻合は終始落ち着いていた。いたずらに笑って見せる余裕すらあるようだ。
「俺が振られたってことにしておいてやるって言っているんだから、そういうことにしておこう」
辻合は一方的に「さぁ、この話はもうおしまい」と言いメニュー表を絵里に手渡した。絵里は呆然とした様子でメニュー表を受け取った。
でも少しずつ、じわりじわりと辻合の心の広さと優しさが伝わってきた。絵里は目を閉じて、震える唇を噛みしめて深く頷いた。そして、
「再婚、おめでとう」
心からの祝福の言葉を辻合におくることが出来た。心の中がすっきりと、軽くなったような気がした。
オーダーした料理を待つ間、二人は目前に広がる夜景を眺めていた。
「ねぇ。奥さんになる人、どんな人なの?」
「気持ちのいい人だよ。明るくてサバサバしていて……今日実は連れてきているのだけど、きっと今頃、リアと外に遊びに出てる」
「そっかぁ。会ってみたかった」
「会いに来いよ。また、ニューヨークに」
その言葉に、絵里はやっとこの日はじめていつも通りの自然な笑みを辻合に見せることができた。
「えぇ、もちろん。言ったでしょ? 絶対にまた遊びに行くって」
「断わられても来るって言ってたよな」
「うん、あはは!」
「その時は、君の隣にも誰かいるといいな」
「そうね。頑張るわ」
目を合わせて微笑みあうと再び夜景に目を向けた。