Beautiful Life ?
03話
いい匂いに誘われるように目を覚ました。
キッチンから漂ってくる香ばしい匂い。絵里のお腹からは起きて早々空腹を知らせる音が。
身体には毛布がかけられていた。リアがかけてくれたものだろう。
お礼を言いにキッチンの方へと行くとリアが料理をしていた。
「あ、起きた?」
「ごめんなさい。どのくらい寝てた?」
「一時間くらいよ」
リアは火を止めると「食事して行ってね」と言った。
「で、でも」
「だってせっかくお家に招待したのに、まだエリと何も会話をしていないわ」
「あ……」
リアは日本に興味があって、日本人の絵里を自宅に招待した。
しかし絵里は、まだリアに彼女の望んだ話を一つもしていなかった。さすがに仮眠までさせてもらって今すぐに立ち去るのも気が引けた。
「それにもう夕方よ? 今から宿探すの?」
「え?」
リアに「こっちへ来て」と手を引かれる。
扉を開けて立ち入った部屋の入り口に絵里の旅行鞄などの荷物が置いてあった。リアが運んだのだろう。
部屋の中へ目を向ける。すっきりと片付けられた広い室内。きちんとベッドメイキングされているベッド。鏡台には生花が飾ってある。
「ここは?」
「ゲストルームよ。今日はここに泊まりなさいよ。一週間いてもいいのよ?」
ゲストルーム完備。絵里はさすが高級住宅街のアパートは違うなと身をすくめた。
「でも、さすがにここまでお世話になるわけには……」
「もちろん、タダに、とは言わないわ」
「え?」
「滞在中、色んなお話を聞かせてくれること。あと、一緒にショッピングしたり! エリも観光で来てるのだから邪魔にはならないようにするけど、案内が必要なら私に言ってね。あ、でも学校のある日はダメ」
「リア? あの」
「少し背伸びしたオシャレなブティックとかアクセサリーショップに行ってみたい。パパとは行けないから……」
リアは母親を事故で亡くしている。多感な時期で父親と二人で買い物に行くことは難しい。
写真で見たリアの母親は若くて綺麗な人だった。写真の中の彼女は絵里と同じ年頃かもしれない。もしかしたら、母親と自分を重ねて見ているところもあるのかもしれないと絵里は悟った。
「分かった。じゃあ、今夜はお言葉に甘えちゃおうかな?」
「そうこなくっちゃ!」
「でも、お家の人の了解を得ないと」
「パパには私から話すよ。意外とお人よしだからきっとOKしてくれると思うわ」
「そう?」
「えぇ。だからエリ、私に話を合わせてね?」
「ん?」
どういうこと?
疑問を浮かべながらぼーっとした表情でリアを見ていると「やだエリ、まだ寝ぼけてる?」と笑われてしまった。たしかに絵里はまだちょっと寝ぼけているようだ。簡単に一晩お世話になると決めてしまったのもそのためだろう。
「シャワーでも浴びる? 食事の準備、もう少しかかるから」
シャワールームへ案内され、扉が閉まる。外から「タオルは好きなの使ってねー」とリアの声。
しっかりした子だなと絵里は感心する。出会った時はあんなにも弱々しく肩を震わしていたリアといつの間にか立場が逆転していた。
ニューヨーク一日目。エリの自由になってはじめての一人旅行は、絵里の予定通りとはいかなかったがひとまず順調と言えるだろう。
キッチンから漂ってくる香ばしい匂い。絵里のお腹からは起きて早々空腹を知らせる音が。
身体には毛布がかけられていた。リアがかけてくれたものだろう。
お礼を言いにキッチンの方へと行くとリアが料理をしていた。
「あ、起きた?」
「ごめんなさい。どのくらい寝てた?」
「一時間くらいよ」
リアは火を止めると「食事して行ってね」と言った。
「で、でも」
「だってせっかくお家に招待したのに、まだエリと何も会話をしていないわ」
「あ……」
リアは日本に興味があって、日本人の絵里を自宅に招待した。
しかし絵里は、まだリアに彼女の望んだ話を一つもしていなかった。さすがに仮眠までさせてもらって今すぐに立ち去るのも気が引けた。
「それにもう夕方よ? 今から宿探すの?」
「え?」
リアに「こっちへ来て」と手を引かれる。
扉を開けて立ち入った部屋の入り口に絵里の旅行鞄などの荷物が置いてあった。リアが運んだのだろう。
部屋の中へ目を向ける。すっきりと片付けられた広い室内。きちんとベッドメイキングされているベッド。鏡台には生花が飾ってある。
「ここは?」
「ゲストルームよ。今日はここに泊まりなさいよ。一週間いてもいいのよ?」
ゲストルーム完備。絵里はさすが高級住宅街のアパートは違うなと身をすくめた。
「でも、さすがにここまでお世話になるわけには……」
「もちろん、タダに、とは言わないわ」
「え?」
「滞在中、色んなお話を聞かせてくれること。あと、一緒にショッピングしたり! エリも観光で来てるのだから邪魔にはならないようにするけど、案内が必要なら私に言ってね。あ、でも学校のある日はダメ」
「リア? あの」
「少し背伸びしたオシャレなブティックとかアクセサリーショップに行ってみたい。パパとは行けないから……」
リアは母親を事故で亡くしている。多感な時期で父親と二人で買い物に行くことは難しい。
写真で見たリアの母親は若くて綺麗な人だった。写真の中の彼女は絵里と同じ年頃かもしれない。もしかしたら、母親と自分を重ねて見ているところもあるのかもしれないと絵里は悟った。
「分かった。じゃあ、今夜はお言葉に甘えちゃおうかな?」
「そうこなくっちゃ!」
「でも、お家の人の了解を得ないと」
「パパには私から話すよ。意外とお人よしだからきっとOKしてくれると思うわ」
「そう?」
「えぇ。だからエリ、私に話を合わせてね?」
「ん?」
どういうこと?
疑問を浮かべながらぼーっとした表情でリアを見ていると「やだエリ、まだ寝ぼけてる?」と笑われてしまった。たしかに絵里はまだちょっと寝ぼけているようだ。簡単に一晩お世話になると決めてしまったのもそのためだろう。
「シャワーでも浴びる? 食事の準備、もう少しかかるから」
シャワールームへ案内され、扉が閉まる。外から「タオルは好きなの使ってねー」とリアの声。
しっかりした子だなと絵里は感心する。出会った時はあんなにも弱々しく肩を震わしていたリアといつの間にか立場が逆転していた。
ニューヨーク一日目。エリの自由になってはじめての一人旅行は、絵里の予定通りとはいかなかったがひとまず順調と言えるだろう。