Beautiful Life ?
 車の通りは多いが人通りは少ない深夜の大通り沿いの広い歩道を肩を並べて歩く。

「よかったねぇ~! ラストのシーン、鳥肌が立って止まらなかった……!」

 たった今観終わったばかりの映画の感想を興奮気味に語り合う。
 歩道に植えられた街路樹にはクリスマスの時に飾られたであろう白い電飾がまだついたままだ。深く黒い空に白い息が消えていくさまも手伝ってどこかロマンチック。
 一歩一歩近づく自宅。もう少しで日付が変わりそうになる時間だったが、まだ一緒にいたい。それは二人とも同じ気持ちだった。
 どちらからともなく足を止めて向かい合った。

「なぁに?」
「そっちこそ、何か?」

 クスクスと肩を揺らして微笑みあう。
 くすぐったさを感じて、どこか甘い今の時間を絵里はとても幸せに感じていた。無性に甘えたい気分になった。

「西野君、覚悟してね」
「何を?」
「私、こう見えてすごく甘えん坊だから」

 西野は「そっか」と答えるとすぐに吹き出した。胸を張って凛とした態度で宣言をされても甘える姿など想像がつかなかったからだ。しかし「なんで笑うのよ」と頬を染めながら困惑する絵里の姿を見てはじめて可愛いと感じた。
 西野は学生の頃、当時は実年齢より大人っぽく、綺麗で明るく清楚な雰囲気の絵里に密かに憧れていた。しかし今は、そんな絵里からは想像しなかった新たな一面を見て、さらに彼女に対する想いが膨らむのを感じた。

「楽しみだよ」
「楽しみ?」
「うん。その甘えん坊な一面とか、まだ知らない小坂さんの色々な一面を隣で見て行けると思うとこれから先が楽しみだよ」
「……うん。私も!」

 明日が楽しみだという幸せ。絵里も西野もしばらく感じることがなかった幸福感を噛み締めていた。
 見つめあって、互いに距離を縮めあって。引き寄せられるように絵里は西野の腕の中に身を預けた。
 空気は冷たいけど、心はほっこり暖かい。頬をぎゅっと西野の胸に押し当てて、絵里は呟く。

「報告しないとな」
「報告?」
「西野くんのこと」
「誰に?」
「ニューヨークに住む大切な友人に」

 絵里はうっすらと涙を滲ませた喜びに満ちた表情で、じっと西野を見上げた。

「大切な人を見つけたわって。今、とても幸せよって」

 そして再び西野の胸に頬をぴったりとくっつけ目を閉じて幸せを噛みしめた。するとそんな絵里の肩に西野の手が置かれ、幸せに浸る絵里を離そうとした。絵里は早速甘え小さな抵抗を見せる。

「嫌、まだもう少しこうしていたい」
「だめだよ。だって、キスができない」
「え……」

絵里はそろっと視線を上げた先で西野と目があってそっと瞳を閉じた。

深夜の大通り沿いの歩道。車道にはまだ多くの車。
二人は、街路樹の影に隠れてこっそりと短いキスをした。そして同時に愛を囁き合う。

「大好きだよ」

(おわり)

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