Beautiful Life ?
おまけ(その後)
01
静かで穏やかな朝。
裕子は自室にいた。テーブル前で絨毯に座り老眼鏡をかける。テーブルの上には登記簿や保険関係の書類、預金通帳などが置いてある。
夫を数年前に亡くし、息子夫婦も離れて暮らしている。もし自分に何かがあった時、離婚して実家に戻ってきた娘の絵里が一人になってしまうことを裕子は案じていた。
絵里が家に戻ってきたばかりの頃、前向きに明るくふるまう様が裕子には無理をしていることが一目見て分かって痛々しかった。
同じ女性として娘の負った傷の深さを考えると、絵里はしばらく恋愛は出来ないだろう。もしかしたら二度と出来ないかもしれない、そう思っていた。
絵里はもう大人だし自立もしている。もちろんそれは理解しているがいくつになっても子供は子供。裕子は絵里が将来一人でも生活していけるよう出来る限りのことをしてやりたいと考えていた。
預金通帳に手を伸ばそうとした時、部屋の外から聞こえるバタバタと騒がしい足音に手が止まる。そして少ししてバンと大きな音を立てて部屋の扉が開いた。
入ってきたのは絵里だった。
「ごめん、ママ! ネックレスつけてもらってもいい!?」
絵里が手にしているのは小さなダイヤのついたシンプルなネックレス。留め金が小さく手間取っているようだ。裕子はネックレスを受け取り絵里の背後へと回った。
「なぁに? オシャレしちゃって。出かけるの?」
「うん。デートなの」
「……え?」
裕子がネックレスをつけると絵里は窓際へ行き外を覗いた。
「わ、もう来てるわ。急がなくちゃ」
「き、来てるって……?」
「ごめん、ママ。帰ったら話すね!」
絵里はそう言い残すと、再びバタバタと慌ただしい足音を立てて部屋を出て行った。
裕子は開けっ放しで絵里が出て行った自室の扉を閉め窓際へ向かう。
ガチャっと家の扉が開く音がして出てきた絵里が向かう先は路上に停められた見覚えのある車の元。車から降りてきた人物にも見覚えがあった。名前はたしか西野君と言っていたっけ。裕子は以前の記憶を思い出しながら呟いた。
「あの時はなんでもないって言ってたのに……いつの間に?」
絵里は一目散に西野の胸に飛び込み、困ったように照れ笑いを浮かべる西野と幸せそうに微笑みあう。
いい大人が白昼堂々と外でいちゃつくなんてと溜息を尽きながらも、外の様子をこっそり眺める裕子の表情は穏やかなものだった。
車が走り去ると窓を開けた。
開け払った窓から入ってくる春の温かな風がカーテンを揺らす。天気もいいし、花壇の花に水でもやろうか。
裕子はテーブルに広げた数々の書類を無造作に束ねると引き出しにしまい部屋を出た。
裕子は自室にいた。テーブル前で絨毯に座り老眼鏡をかける。テーブルの上には登記簿や保険関係の書類、預金通帳などが置いてある。
夫を数年前に亡くし、息子夫婦も離れて暮らしている。もし自分に何かがあった時、離婚して実家に戻ってきた娘の絵里が一人になってしまうことを裕子は案じていた。
絵里が家に戻ってきたばかりの頃、前向きに明るくふるまう様が裕子には無理をしていることが一目見て分かって痛々しかった。
同じ女性として娘の負った傷の深さを考えると、絵里はしばらく恋愛は出来ないだろう。もしかしたら二度と出来ないかもしれない、そう思っていた。
絵里はもう大人だし自立もしている。もちろんそれは理解しているがいくつになっても子供は子供。裕子は絵里が将来一人でも生活していけるよう出来る限りのことをしてやりたいと考えていた。
預金通帳に手を伸ばそうとした時、部屋の外から聞こえるバタバタと騒がしい足音に手が止まる。そして少ししてバンと大きな音を立てて部屋の扉が開いた。
入ってきたのは絵里だった。
「ごめん、ママ! ネックレスつけてもらってもいい!?」
絵里が手にしているのは小さなダイヤのついたシンプルなネックレス。留め金が小さく手間取っているようだ。裕子はネックレスを受け取り絵里の背後へと回った。
「なぁに? オシャレしちゃって。出かけるの?」
「うん。デートなの」
「……え?」
裕子がネックレスをつけると絵里は窓際へ行き外を覗いた。
「わ、もう来てるわ。急がなくちゃ」
「き、来てるって……?」
「ごめん、ママ。帰ったら話すね!」
絵里はそう言い残すと、再びバタバタと慌ただしい足音を立てて部屋を出て行った。
裕子は開けっ放しで絵里が出て行った自室の扉を閉め窓際へ向かう。
ガチャっと家の扉が開く音がして出てきた絵里が向かう先は路上に停められた見覚えのある車の元。車から降りてきた人物にも見覚えがあった。名前はたしか西野君と言っていたっけ。裕子は以前の記憶を思い出しながら呟いた。
「あの時はなんでもないって言ってたのに……いつの間に?」
絵里は一目散に西野の胸に飛び込み、困ったように照れ笑いを浮かべる西野と幸せそうに微笑みあう。
いい大人が白昼堂々と外でいちゃつくなんてと溜息を尽きながらも、外の様子をこっそり眺める裕子の表情は穏やかなものだった。
車が走り去ると窓を開けた。
開け払った窓から入ってくる春の温かな風がカーテンを揺らす。天気もいいし、花壇の花に水でもやろうか。
裕子はテーブルに広げた数々の書類を無造作に束ねると引き出しにしまい部屋を出た。