Beautiful Life ?

　午後9時を少し回ったころ、風呂を上がってリビングに向かう裕子と帰宅した絵里はばったり玄関先で鉢合わせた。

「おかえり。楽しかった？」
「うん。桜を見に行ってきたんだけど綺麗だったよ」

　笑顔で会話を交わしながらリビングへ入る。ソファに並んで座り絵里は早速恋人の存在を裕子に打ち明けた。高校の同級生で昔恋をしていた人物だということ、友人の計らいで思いもしない場所で再会したこと。

「西野クリニックって前に一度……」
「うん。ママが診てもらった先生は彼のお父さんなんだって」

　昔好きだった人と再会をして、その頃は叶わなかった思いが何年もの時を経て叶う。終始幸せそうな笑みを浮かべながら西野のことを語る絵里を見ながら裕子は少し羨ましいと思った。
　いつだったか、絵里が自分が嫉妬するくらいのいい人をつかまえると言っていたがそれが本当になったと思って裕子は小さく吹き出した。

「どうしたの？」
「ううん、なんでもない。続けて？」

　その後しばらく絵里の惚気話は続き、「お風呂が冷めるよ」という裕子の言葉にようやく絵里の口は止まり「そうね、入ってくる」と言って絵里は立ち上がった。
　裕子はリビングを出ていく絵里を目で追っていると扉の前で絵里が振り返った。

「ママ、強がりでもなんでもないよ。私はもう、大丈夫」

　そう言って微笑む絵里の笑顔は、裕子が懸念していた無理して作った笑みではない。
　春の穏やかな陽気のように温かで幸せであるということが一目見て分かるものだった。
　パタンと閉まる扉を見つめながら裕子はソファにもたれ掛る。そして「いいなぁ、若者は」と呟きながら、
若かりし頃の夫との恋愛を思い出して久々にときめきを覚えたのだった。
　　
（おわり）