【短編】マイ・スイート・ショコラホリック

マイ・スイート・ショコラホリック

「もうすぐバレンタインだねぇ。真央くん」


壁に掛けられたカレンダーを眺めながら、向かい側に腰掛けている男の子に話しかけた。しかし、しばらく待っても返事は返ってこない。

視線はそのままで、あと五秒待とうかな。なんて考えている私は夏目ゆき（なつめゆき）。最近美容師さんにしてもらった薄茶のボブヘアーがお気に入りの二十六歳。


五秒待ってもやはり返事は返って来なかった。このままでは私の独り言になってしまう。

……まぁ、でも、こんなのはいつものこと。慣れっこだ。


「ちょっとお、キミに話しかけてるんですけどぉーー。お砂糖ちゃん」


視線をカレンダーから向かいの彼に移す。

ふわふわとした天然パーマの茶髪が可愛い。顔も全体的に可愛らしい感じで、まるで子犬のような男の子。そんな彼の名前は佐藤真央（さとうまお）。ピチピチの二十歳である。

漢字は違えど〝サトウ（砂糖）〟という名前を持ち、こんなに甘いルックスまで持っている彼の性格は、なんと〝ツンツン〟なのだ。

私は、テーブル越しの彼にぐっと顔を近づけると人差し指で彼の額を突いた。

その瞬間、彼の眉間にいくつかのシワが寄る。

……あ、怒った。


「その呼び方やめぇや。ほんまにダサい。ネーミングセンスどうなってんねん」


私の事を薄く開いた瞼の隙間から覗き、冷たい視線を注ぐ。

ここらでは珍しい関西弁が、言葉を余計にキツいニュアンスにさせている。