未来旅行~お試ししてから選んで下さい~
日常
恋愛事情
「………大人になりたい」
梅雨前のよく晴れた青空に向かって、私は盛大なため息をついた。
「なに」
隣から携帯をいじる綾乃のダルそうな声がする。
私はお昼のメロンパンをかじりながら、教室を見渡した。
「………なんかさ、高校生ってもう飽きてこない?」
綾乃はくるりと私に向き直ると、少し怒ったように口を開いた。
「櫻子、あんた何なめたこといってんの。
高2なんて、一番何も考えず遊べんじゃないの」
しかも、と綾乃は続ける。
「あんたは私と違ってカレシ様もいるし。リア充ってやつでしょ。」
(………カレシ、ねぇ)
私は、綾乃に言われて頭に浮かんだ司のことを考えた。
同じクラスの司とは、もうすぐ付き合って半年になる。
周りからちやほやされる時期も通りすぎ、特にケンカとかもないままここまできていた。
(…何がイヤってわけじゃないんだけど)
中学から知り合いだった司とは、家もわりかし近く、たまに話をしていた。
高1になって同じクラスになり、毎日話をするようになって、偶然会ったりすればたまに一緒に帰るようにもなった。
話といっても、特にトキメキもない、クラスの噂話や最近見たテレビについてがほとんどで、司が男だと意識したことはなかった。
高1の体育祭が終わった辺りから、私の周りでは、1人また1人とカレシができる女子が増えてきた。
私は友だちがカレシができたと言うたびに、無性にカレシが欲しくてたまらなくなった。
カレシ持ちの女の子特有の、あの優越感がにじみ出た目が自分に向いているのがどうしてもイヤだった。
たいしてカッコよくも目立ちもしない男子でも、友達がカレシだと紹介すると、急にイイ男に見えてくるから不思議だ。
キスしたかもうヤったのか、周りはもちろんだが自分も心の中では興味津々なのも面白くない。
べつにその行為自体をしたいわけではない。
でも私には、その行為をまだ自分が乗り越えていないという事実が、周りからどう思われているかが、とても重要なことのように思えた。
そんな時、隣のクラスの女子が司のことを好きらしいと綾乃から聞いた。
その二日後、私は司に一緒に帰ろうと誘い、人生初の告白をした。
司は私をフラない、
そんな確信があった。
案の定、ビックリした様子の司は少しうつむいた後、
「……オレでよければ」
と、無事に告白は成功に終わったのだった。
「………ねぇ綾乃」
私は考えるのをやめ、親友をみつめた。
「…なんで彼氏って必要なの」
綾乃は呆れるようにため息をつき、
「それを私に聞くわけ?」
言いながら携帯を机に置くと、
「司とケンカでもしたの?
それで退屈してるわけ?」
「そういうわけじゃないんだけど……」
司は誰にでも優しい。むしろ優しすぎるくらいだ。
最近多い草食系というやつなので、基本的には私が二人で会う日も行く場所も決める。
気心も知れてるし、一緒にいて居心地が良く、最初は特に不満もなかった。
お互い初めての相手だったし、友達と恋人の違いもよくわからなかった。
それでも、付き合って2ヶ月くらい経った頃から、周りから進捗状況を聞かれ始め、私は少し焦り始めた。
まだキスも出来ていなかったのだ。
でも、この友達の雰囲気から、どうキスやエッチにもっていくのかが、全くわからなかった。
司とは力関係ができていて、司から何かアクションを起こしてくれるとは考えにくい。
もう、キスがしたい…ではなく、
(そろそろしなければ)
という義務感が私を支配していた。
私は一緒に帰っていたある日の別れ際、
「キスしてくれない?」
と、勇気を出して司に申し出てみた。
「…………」
司は私を見たまま完全に固まってしまい、
重い沈黙が流れた。
「………わかった」
司はしばらくして、私に向き直り、顔を近づけてキスをしてくれた。
「………」
「………。」
二人とも無言でしばらく黙った後、
「………じゃあ、また明日」
と言って、司は小走りに駆けていった。
これが私のファーストキスだった。
それから4ヶ月近くの間、私たちは3回ほど触れるだけのキスをしたが、それ以上は何もないまま、気づけば付き合って半年の歳月が流れていた。