龍神のとりこ
瞬間、自分の背後に現れたシオウにジンは驚きもしなかった。

ことり、と手にしていた櫛を置く。

「お前はいつもきれいだよ、ジン。」
低く響く声でシオウは囁いた。
彼女の長い髪をなでる。抱き寄せようとした腕をジンはするりとかわした。

こちらを向かない。

「とても長い時が過ぎたわ。私もあなたも。」
振り返った顔には長い時が確かに刻まれていた。
「それがどうした。これからも時は続いてゆく。私はお前と居れさえすればそれでいい。」
ゴロゴロと部屋中に響く。
愛おしそうに見つめる瞳。その龍神の顔にも、同じように深く皺が刻まれている。


「果物が食べたくなったの、少し、出てくるわ。」

いつもと違うジンをシオウは『ああ』と送り出した。

『長い時が過ぎた』そうだったか?
ふたりで過ごし始めてから、私には時間の流れはあるようで無いものだった。穏やかでこれまでになく幸せなーーー、ジンには?

ジンの見ていた鏡に、己の姿を映す。

私には理解できない女心だろうかーー?


時を重ねても、私は変わらずお前を・・・

部屋に残るジンの香りを腕に抱き締めた。。



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