龍神のとりこ
両手をそっと掴まれたまま、妙な格好で名前を告げた。
「トーコ、いい子だ。」
ふっと微笑むまなざしを見た途端、
トーコの瞳にたまっていた涙の粒がぽろっとこぼれ落ちた。

「泣くな。もう襲わない。」
ぐしゃっと頭を掴まれる。

「う、、っ」
その手はさっきの恐怖を感じさせたものとは違っていた。
張り詰めていたものがどっとこみあげてきた。

しゃくりあげながら、トーコは
「あなたは、人間じゃない、、の?」
何とか伝えた。人間じゃない、とか、自分の記憶もないのでぴんと来ないのだが。。

「俺はコハクだ。人間じゃない。」
コハクと告げた男は腰を上げた。

「龍神だ。立てるか?」

差し伸べられた手に、一瞬戸惑う。
「りゅ、、りゅ、、」

「龍神だ。」
見上げた男の表情は逆光でよく見えない。


「お前が巫女なら、取って喰うところだが、
さっきも言った通りお前は違うらしい。だから襲わない。」

さあ、と促され、その手にそっと手を重ねた。
ぐいっと引き起こされる。

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