あなたのヒロインではないけれど




「すみません、SS社の氷上(ひかみ)ですが、店長様はいらっしゃいますか?」

「あ、はい。店長はカフェの方にいます」

「ありがとうございます、では」


ペコリと頭を下げたサラリーマンさんは、どうやら玩具を扱う会社の営業マンだったらしい。栗色の髪を今風に流した爽やかな笑顔に、どうしてか胸がざわついた。


「あらあら、なかなかのイケメンじゃない。SS社ならかなりの稼ぎ手だろうし、見たところ結婚指輪はしてなかったし。結実、どう?」

「え? どう……って」


真湖の言いたい意味がわからないけど、あんな短時間でそこまでチェックするのが凄い。


「だから~! 一度でいいから、付き合ってみなって。忘れろとは言わないけどさ、いい加減現実を見ないと。リアルで男性の良さを見りゃ、案外コロッといくもんだよ?」

「……真湖」

「うちら、まだ若いけど。年を取るのなんて、あっという間なんだから。いつまでも昔を思ってうじうじしてるより、今を楽しまないと損だよ」


真湖の叱責は胸に突き刺さるし、痛い。


痛いけど……


心底私を心配してくれてるから、敢えて厳しいことを言ってくれてるんだ。


「ほら、とりあえず挨拶だけでもしてみな。名刺GETが目標! 大丈夫、今のあんたはきれいだから自信を持って」


バンッ! と背中を叩かれて、よろめいたけど。確実に後押しされた。


「う、うん……がんばってみる」


付き合うとか考えられないけど、せめて話しかけられるくらいにはなりたい。だから、頑張ろう。そう勇気を奮い起こして、店長と話し終えた氷上さんに近づいた。

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