あなたのヒロインではないけれど
(ええと、どうやって話しかけよう。玩具の会社にお勤めなら、やっぱり玩具について訊くのが不自然じゃないよね)
バクバクと鳴る胸を押さえながら、落ち着く為に深呼吸。
真湖の言うように、名刺を頂けるように頑張らなきゃ。そう気合いを入れて、よし! と頷くと、氷上さんに向かい足を踏み出した。
震える自分を叱咤して、氷上さんがこちらを向いた瞬間――彼はポケットからスマホを取り出して画面を見つめてた。
勢い込んだだけに、がっくりきて肩を落とすけど。真湖に肩を叩かれて、気合いをチャージ。うん、と氷上さんを見た瞬間――あっ、と声を上げそうになり、慌てて手で口を押さえた。
「結実、どした?」
「う、ううん……なんでもない」
真湖には曖昧に笑って誤魔化すしかない。だって、今ここで話す訳にはいかなかったんだ。
……どうして……あれを氷上さんが持っているの? あれは……あのひとの手に渡ったはずなのに。
心臓が、もっと大きくバクバクと跳ねる。訣別するはずだった過去を繋ぐその存在に、私の心はざわめき始めた。
どうして……その思いで、私は無我夢中だった。
「あの……氷上さん」
「はい?」
突然、顔見知りとも言えない営業先の店員から話しかけられたというのに、氷上さんは穏やかな笑みで返してくれた。
「どうかされましたか?」