あなたのヒロインではないけれど
「そう言えば、今カノの菜月(なつき)さんも同中だったよね」
お姉ちゃんが聞き覚えのある名前を出した途端、「ぶほっ!」とお兄ちゃんが噎せた。
「お……おまえ、何で知って」
「おっほっほっほ。あたくしのネットワークを甘く見ないでくださいな」
真っ青だか真っ赤だかよくわからない顔色で、お兄ちゃんはぶるぶる震えてる。高笑いする一つ年下の妹を見る目に、恐怖が滲んでるのは気のせい……たぶん。
「生徒会の書記をしてた優等生さんを射止めるとは、なかなかやるじゃない」
「うっさい!」
生徒会……書記だった菜月先輩。彼女は知ってる……だって、生徒会のメンバーの中では、皐月先輩やゆみ先輩とよく見かけたから。
ざわざわと胸が騒ぐのを誤魔化すように、小松菜のお浸しに箸をつける。動揺が悟られませんように……と願いながら。
「そういや生徒会と言や、有名なカップルが居たよな。さくら、おまえの同学年じゃなかったか?」
「あ、そういやいたね。美男美女で“お姫様と王子様”“ロイヤルカップル”なんて呼ばれてた」
何気ないお兄ちゃんの切り出しにお姉ちゃんが応じて、二人は昔ばなしに花を咲かせたけど。驚いた私は思わず両手で胸元を押さえた。
「すっごい綺麗な生徒会長と常にそばにいる副会長。現実感がないくらい別世界の二人だったけど、あれは憧れたな~」
「怖いもの知らずの無謀なヤツラもいて、告っては潔くフラレたよな。オレが知るかぎりは片手じゃ足りないくらいだったぞ」