あなたのヒロインではないけれど
午前中の農作業と手伝いを終えた二人は、お昼ご飯を食べてから帰宅した。
私は早めに乾いた洗濯物を取り入れたり、庭の草むしりをしながら過ごす。
「すまないねえ、結実。棚におはぎあるから食べなさい」
「ありがとう、おばあちゃん」
額の汗を手のひらで拭う。4月の晴れた日に動くと結構暑い。そんな私を労ってくれたおばあちゃんのおはぎは、滅多に食べられない。兄と姉には申し訳ないけど、ありがたく頂くことにした。
「お茶でも淹れるね……あ」
立ち上がったところで、生け垣の向こうから手を振る白髪のおじいちゃんの姿が。
「あら、まあ。洋平(ようへい)さんったら、またお庭の方に」
「やあ、すまないね。見事な石楠花(しゃくなげ)に惹かれて来たら、綺麗な二輪の花に出逢えてよかったよ」
被っていた帽子を取って軽く頭を下げた洋平さんは、おばあちゃんのお友達。今は亡きおじいちゃんの友達でもあったらしい。
髪こそすっかり銀色になってしまったけど、チェーンがついた丸いメガネをかけて、口ひげを生やし、ダブルボタンのスーツを着こなす。“ダンディー”という言葉がぴったりな“おじいちゃん”だった。
私も、幼い頃からよく可愛がってもらえた。
本当のおじいちゃんが亡くなったのは私が3つのころだから、時折訪ねてくる“洋平おじいちゃん”が、私の祖父がわりと言えたんだ。
おばあちゃんの他に幼い私の荒唐無稽な話をきちんと聞いてくれた数少ない理解者でもあった。