あなたのヒロインではないけれど



そして、逆に手を引かれてどんどん歩いた先にあったのは、当然氷上さんの部屋で。オートロックのドアを開いた後、ダイニング兼リビングらしい部屋へ。彼はそこのソファに座ると、両手で顔を覆う。


やっぱり変だ……。


いつもはどれだけ大変でも笑顔を絶さない人だったし。周りへの気配りを忘れなかったのに。

これだけ余裕を無くした彼を見るのは初めてで、どうすればいいのかわからないけど。とにかく暖めないと、とエアコンを付けて暖房を入れてから、お水を飲ませようとキッチンに向かう。


アイボリーの基調のキッチンは観葉植物も飾ってあり、お洒落ではあるけれど。どこか生活感を感じさせない。


(ゆみ先輩が綺麗にしてるのかな……)


食器棚からグラスを借りる時、二人分揃えられた食器を見て、ズキッと胸が痛む。


(あんまり長居しちゃダメだ……ゆみ先輩が心配して様子を見に来るかもしれないし……友達ですらない私が居たら……迷惑になるだけ)


ピカピカのシンクで水道水をグラスに入れると、なるべく足音を立てないように気をつけて氷上さんの足元に膝をついた。


「氷上さん……お水……飲んでください。アルコールを薄めないと……」


何も反応がないから、仕方ないなとため息を着いた私はテーブルにグラスを置いた。


「ここに置いておきますから……じゃあ、私は……失礼しますね。お邪魔しました」


近くに置いたバッグを手にしようと立ち上がった瞬間、その手が掴まれて身体がよろめいた後に何かにぶつかった。


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