あなたのヒロインではないけれど
「どうですか? どれもステキでしょう!」
なぜ、作者本人でなく他者の真湖がノリノリで押すのかわからないけど。たぶん、まどろっこしくて援護してくれてるんだよね?
「はい、あの……こ、これは猫と月のストラップで、とある童話をモチーフにしてます。こっちは不思議の国のアリスで」
「童話がお好きなのですか?」
「え、は……はい。昔から絵本やファンタジーが好きで……こういうものを作ってたんです」
「そうですか……触ってみても?」
「は、はい。どうぞ!」
氷上さんに話しかけられて、バクバクがドキドキに変わる。まさか、こんなふうに話せるなんて思わなかった。
ストラップの謎はあるけど、偶然手に入れたのかもしれないし。だいたい名前があの人とは違う……とは思うけど。
チラッと横目で氷上さんを見ると、彼の真剣な横顔に心臓が跳ねた。すごく真面目に私の作品を見てるのだけれど。
……似てる、と。不意に思った。
あの人、に。その横顔がとてもよく似てる。
名前が違うはず。だけど、年齢はたぶん同じくらい。何よりあのストラップを持ってる。
(まさか……)
まさか、と思う。あり得ない。
だって、彼は――遠くアメリカへ。彼女とともにいったはずなのに。