あなたのヒロインではないけれど
明け方になってようやく氷上さんの力が抜けたから、彼から離れることができた。
ホッと息を吐いた後、ブランケットを捜して彼に掛けた後にそっと部屋を出ようとしたけれど。
氷上さんはかなりたくさん飲んだから、朝が辛いだろうと思って。朝の支度をすることにした。
もしかするとゆみ先輩が来るかもしれないと思うけど……氷上さんがしてもおかしくない程度で出来ることは。
食材はあまり無くて、パックのご飯と卵……があるから。お粥を作ることにした。卵のたんぱく質は肝臓にいいし、お粥は体に優しい。
豆腐や梅干しはないか探したけれど、不思議なことに冷蔵庫はほとんど空っぽ。幸いチーズがあったから、それも切って一緒に食べられるようにしておいた。
(え……と、これだけでもいいよね)
氷上さんの脱ぎ捨てられたジャケットをハンガーにかけて、さっとシワを伸ばし埃を取る。これが精一杯で、後は痕跡を残さないように気をつけながらそっと部屋を出た。
何とか、気づかれないままマンションを出た後、息を吐いて建物を見上げた。
(いったい……何があったんだろう? ゆみ先輩もやって来なかったし……あれだけ様子がおかしいと、恋人なら心配して来ると思ってたのに)
どうにも違和感が拭えないけど、自分が考えても仕方ない、とマンションを後にした。
まさか、それを誰かに見られていたとは知らずに――。