あなたのヒロインではないけれど
第6話~水族館と幻の恋
7月初旬。
まだ梅雨が明けきらない空模様は、鬱々した気分にさせられるけれど。それを吹き飛ぶように嬉しい発表がなされた。
「見ろよ! 小さいけど出てるぜ、今回の新製品のニュースリリースが」
仕事場となった会議室で結城さんが経済新聞をバサリと広げると、そこに出ていたのは新製品情報。玩具のジャンルではアースィのぬいぐるみが写真付きで記事にされていた。
他にも結城さんはありったけの新聞を買い漁ったらしく、次々と広げては小さな記事も見せてくれる。大手新聞では小さな扱いだけど、確かに記事になっていて。これは現実なんだ、と身体が震えるほどの嬉しさを感じた。
(ゆみ先輩……あなたの夢にちょっとでも近づけました)
氷上さんをチラリと見ると、彼はいつもと変わらない笑みで新聞を眺めてる。
彼こそ、思い入れは人一倍あったはずで。私以上に喜ぶと思っていたのだけど。
(ううん、きっと個人的な事情だから。社会人として、大人として表に出さないだけだよね)
氷上さんは一見優しくて誰にでも公平、いつもにこにこしているように見えるけど。自分の感情を出すことは滅多にない。
他のメンバーが比較的素直でストレートに感情表現をする分、彼の控えめさはかなり特別な感じがした。
でも……あの日。
3ヶ月前での花見の夜。彼は珍しく荒れて深酒をした。
あの夜は何があったのか……私は、何も知らなかった。