あなたのヒロインではないけれど



彼があからさまに感情を乱したのは、あの日一度きり。


それ以来飲みに行っても必ずセーブをして、逆に酔いつぶれた同僚の世話を買って出るほどで。たぶん、それは。以前と同じ氷上さんなんだと思う。


穏やかな笑みを見ると、たぶん問題は解決してゆみ先輩と上手くいってるんだ。その度に苦しくなるけれど、よかったと思うようにする。


氷上さんがしあわせなら……私はいいんだ。これは私が勝手に抱いた想いで、氷上さんに関わりがないこと。押し付けるつもりはない……婚約者がいる人に。


相手を条件で諦めるなら本物の恋じゃないかもしれない。でも……誰も望まないのに上手くいってしあわせな二人に横やりを入れ、仲を壊すなんて。ぜったいにしたくない。


偽善かもしれないけれど、私は……氷上さんがしあわせなら、いい。 そう思う。


「ミテ、ミテ! アースィのコミックも先行で連載Startしたヨ!」


ネイサンさんが息を切らして会議室に入ってくると、刷り上がって検品が済んだばかりの雑誌を長机で広げる。


ネームや原稿はチラリと見せてもらったけれど、こうして商業誌に正式に載るとなると、やっぱりまた格別な思いを味わえた。


「絵本はアニメがStartする10月1日から発売スルヨ。アプリは先にDL開始。今、テスターでデバッグしてる」

「タイの生産工場でも量産体制が整いましたからね。製品パッケージも決定しました」


次々と新しい報告が上がって、いよいよ発売まで盛り上がっていくんだ……と。気分を新たにした。


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