あなたのヒロインではないけれど
(私の仕事も終わりかな……)
もともとアイデア出しの手伝いという前提で誘われたのだから、ここまで進んでしまえば私が出来ることはほぼ無い。一応、ミラージュ本社からの派遣という形を取ってはいるけれど、営業やプレゼンや交渉が出来るでなし。自分の無力さを近ごろは痛感していたから、いつ身を引くかのタイミングを考えていた。
ただ、それをいつ誰かに言うかが問題。主任でチームリーダーの結城さんが適任かもしれないけれど、彼は一番忙しい。私の下らない悩みで余計な負担を掛けたくない。
となると残る3人ということになるけれど、ネイサンさんはどこか私に対して冷たく感じる。表面上はフレンドリーだけど……。何やら含みがありそうな仄めかしを何度もされて、とても相談する気にはなれない。
氷上さんは……どう思うだろう? 途中で放り出したと呆れるかな?
でも、きっと。私の事情を話せば解ってくれるはず。とはいえ、やっぱり誘われた以上は言いにくい。
残る仲田さんは……厳しいけれど、親身になってくれそう。結城さんとは同期だし、彼に意見してくれるかもしれない。
そこまで考えて仲田さんを誘う為に、仕事帰りにSS社のロビーで彼女を待っていたのだけど。
唐突に、スマホにメッセージが入った。
《仕事お疲れさまです。ちょっとお伝えしたいことがありますから、近くのカフェでお待ちいただけますか?》
珍しく、氷上さんからのメッセージだった。驚きのあまりに、何も問うこともなく《わかりました》と返したところで……我に返ってから慌てても後の祭りでした。