あなたのヒロインではないけれど
「唐突ですみません。ですが、どうも最近あなたが沈みがちに見えて……なにか思い悩んでいるのではないかと。私でよければお話を聞くくらいは出来ますし、誰かにお話をしたければそれでも構いませんが」
「えっ」
氷上さんが……私の様子を気にしてくれていた?
それは、優しい彼ならば予想できたことだけど。まさか臨時の私にまで気にかけて下さったなんて。
じわじわと嬉しさが胸に広がって、不覚にも涙が滲みそうになった。
(今……なら、良いかもしれない。ちょうどいい機会だから……そろそろミラージュに戻ることを伝えよう)
アイデアを出して製品の規格が完全に決まった以上、私の役割は終わり。氷上さんが引き留める筈はない。そう決めた私は、思い切って彼にそれを告げた。
「なら……あの……私、そろそろミラージュに戻ってもいいですよね? 出来ることはもう何もありませんし……」
私がそう切り出すと、氷上さんは両手を組むとテーブルに置いた。
「それが、鵜野さんの悩みでしたか」
「……はい」
認めてしまえば、何だこんなものかと気が軽くなる。もともと社員でない私がいつまでもいても役立たずなだけ。氷上さんもやんわりと認めると思っていたのだけど。
「そうでしたか……実は、鵜野さんに新しいお願いをしようと思っていましたので、ちょうどよかったです」
氷上さんがにっこり笑顔になったので、私は何が起きたかと目を瞬くしかなかった。