あなたのヒロインではないけれど
「なぜ……こんなことに」
翌日の午前10時――
とある駅のコンコースのベンチに私は居ました。
「すみません、お待たせしてしまいましたか?」
エスカレーターでなく階段を上がってきた氷上さんは、小走りで私のもとへ。かなり急いだのか、息が弾んで汗をかいてる。
「よ、よかったらこれを」
用意しておいたハンカチタオルを渡すと、「ありがとうございます」と彼は遠慮なく汗を拭く。
水色のギンガムチェックのシャツに、モノトーンカラーのデニムを合わせて、足元はたぶん有名なメーカーのスニーカー。いつものきっちりした彼しか見たことがないから、カジュアル感が新鮮でドキドキが止まらないのだけど。
どうしても、ひとつだけはっきりさせたいことがあって氷上さんを見上げた。
「あ……あの……」
「はい?」
訊き辛いけれど、これだけはきちんとしておかなきゃ。あらぬ誤解をされないためにも……と、彼の意識を確認するために口を開く。
「あの……これも、仕事のため……なんですよね? 仕事の延長で、必要だから。ですよね?」
「ええ。昨日お話しさせていだだいた通りに、次の企画としてアースィの別のシリーズものを考えてもよろしいのではないかと。おそらく、数字が出れば次の話は出るはずですからね」
にっこり、と氷上さんは笑顔でそつのない言葉を並べ立てました。