あなたのヒロインではないけれど




「これは、見事な完成度ですね」


氷上さんが今日展示したばかりの桜のストラップを手に取った。


「桜の優美さと儚さがよく表されてます。よほど気持ちを込めて作られたのでしょう?」

「それは……」

「ええ、もちろんですわ。結実はすごく優しくていい娘(こ)ですからね!」


また、本人でなく真湖が口を挟んで勝手に話を進める。にこやかだけど有無を言わさない強引さに、文字通りに開いた口が塞がらない。


氷上さんは手にした私の作品を眺めて、フッと口元を緩める。

(え、微笑んだ……の?)


営業スマイルでないだろう彼の表情を、思わず食い入るように見つめてしまう。やっぱり……似てた。


笑う時に、微妙に唇の持ち上げ方が違うこととか。眉が少し持ち上がるクセ。


何より、今見つけた。


彼と同じ。目元にある小さなホクロ。よくよく見ないとわからないそれは、横顔しか見れなかった私がよく目にしていたものと同じ。


(……皐月……先輩? 皐月先輩なんですか?)


中学1年の終わり――


最後に見たあの横顔と、今の氷上さんが重なる。


でも……


たとえ今二人きりだとしても、訊く訳にはいかない。


だって。


彼は、私を知らないはずだから……。


それに、何より。


彼には、最愛のひとがいる。


それはたとえ天地がひっくり返ったって、動かしようがない事実だった。


< 14 / 245 >

この作品をシェア

pagetop