あなたのヒロインではないけれど
「これは、見事な完成度ですね」
氷上さんが今日展示したばかりの桜のストラップを手に取った。
「桜の優美さと儚さがよく表されてます。よほど気持ちを込めて作られたのでしょう?」
「それは……」
「ええ、もちろんですわ。結実はすごく優しくていい娘(こ)ですからね!」
また、本人でなく真湖が口を挟んで勝手に話を進める。にこやかだけど有無を言わさない強引さに、文字通りに開いた口が塞がらない。
氷上さんは手にした私の作品を眺めて、フッと口元を緩める。
(え、微笑んだ……の?)
営業スマイルでないだろう彼の表情を、思わず食い入るように見つめてしまう。やっぱり……似てた。
笑う時に、微妙に唇の持ち上げ方が違うこととか。眉が少し持ち上がるクセ。
何より、今見つけた。
彼と同じ。目元にある小さなホクロ。よくよく見ないとわからないそれは、横顔しか見れなかった私がよく目にしていたものと同じ。
(……皐月……先輩? 皐月先輩なんですか?)
中学1年の終わり――
最後に見たあの横顔と、今の氷上さんが重なる。
でも……
たとえ今二人きりだとしても、訊く訳にはいかない。
だって。
彼は、私を知らないはずだから……。
それに、何より。
彼には、最愛のひとがいる。
それはたとえ天地がひっくり返ったって、動かしようがない事実だった。