あなたのヒロインではないけれど
「……ぼくのハイスクール……高校時代はね、あまり楽しいものじゃなかったんだ」
唐突に、貴明さんは告白を始めた。その目はやっぱり海に向けられていて、遠くへ思いを馳せているよう。
「ハイスクールに入る前にとある事故に遭ってね。それで人生が一変してしまったんだ」
これはその時の傷だよ、と彼は前髪を上げてうっすらと痕が残る傷を見せてくれた。
「ずっと信じていたものが壊れて……何を信じて良いのかわからなくなったころ。支えとなってくれたのが子どもの頃夢中になったゲームなんだ。
それと……これが」
貴明さんはスマホを取り出すと、そこにぶら下がるマスコットを手のひらに載せる。
「……誰がプレゼントしてくれたのか、ぼくは知らない。だけど……見る度に不思議と優しい気持ちになれたんだ。まるでそばで見守ってくれてるみたいで……遠い異国の地でも頑張れた。とても心強い支えになってくれたんだ」
そう話す貴明さんが……とても懐かしむように、いとおしむようにマスコットを撫でてくれていた。
……その瞬間、私は。
もう、いいと。そう思った。
貴明さんが……マスコットに込めた私の想いに気づいてくれていた。支えにしてくれていた。
あのマスコットは……私の代わりに彼を見守ってくれていたんだ。
そして、これからもずっと私の代わりに彼のそばにいられる。大切にしてもらえる。
……もう、いい。
私は、それだけでいい。
それだけで、十分なしあわせをもらえたから……。