あなたのヒロインではないけれど
「え……お迎えなんて……」
そんな人いませんと言おうとしたのだけど。なぜか、氷上さんは先ほどまでの明るさが嘘のように押し黙ってしまった。
頑なに見える彼に何かを言うことも出来ずに、私も黙って駅のコンコースから階段を降りて駅前のロータリーに出るしかなくて。
タクシーやお迎えの車が連なるロータリー広場のベンチに座ると、彼もすぐ隣に腰を下ろした。
……なぜだろう? 何だかご機嫌ななめ?
せっかく楽しかったのに。浮き立った気分はぺしゃんこになって。どんどんと重い気分になっていった。
なにか、まずいことでもしたのかな? それともわがまま過ぎて呆れて怒ってしまったとか。
氷上さんの不機嫌な理由がわからずにおろおろしていると……
突然、耳をつんざく軋む音が聞こえて、驚いてそちらを見れば。目の前でタクシーが急ブレーキを掛けて急停車をしていた。
「……事故?」
私が呆然と呟いている間にも、隣にいた氷上さんがいつの間にかタクシーに駆け寄っている。
どうやら、何かが轢かれたらしい。大変だ、と遅ればせながら私も慌てて後に続いた。
「きゅ、救急車……警察……」
震える手でスマホを取りだそうとした私に、氷上さんが肩越しに振り向く。
そして……彼が抱き抱えていたのは。
一匹の猫ちゃんだった。