あなたのヒロインではないけれど
最初の1ヶ月はキャンディの治癒の為にも、毎日通わなきゃいけなかった。
私の仕事は基本的に定時である午後6時に終わるけど、氷上さんはそれから更に残業をする。私に手伝いは許されないから、せめて仕事帰りに氷上さんのマンションに寄り、キャンディと名付けられた子猫のお世話をする。
ちなみに、合カギのカードキーは最初に氷上さんから渡された。
最初は気難しくなついてくれなかったキャンディも、今はすっかり慣れて纏いついてくれるのが嬉しい。
若いからかキャンディの治癒も早くて、1ヶ月を過ぎた頃にはほとんど完治した。
その頃から……なぜか。キャンディのご飯と同時に、氷上さんの夕食まで作るようになったのは。 彼が多忙過ぎて食生活を疎かにしてたから。
いつ見ても綺麗なキッチンに、冷蔵庫や食器棚はほぼ空っぽ。見るのはお酒類やたまにコンビニで買ったお惣菜や、レトルトにカップ麺なんかのインスタントばかり。
田舎のおばあちゃんからどっさりと野菜を頂いたから、おすそ分けついでに簡単な和食を作れば。氷上さんはとても喜んでくれて、大げさなくらい美味しいと褒めてくれたから。ついつい……調子に乗ってしまった感は否めない。
それ以来、氷上さんの残業が長引きそうな時。マンションに寄ってキャンディのお世話をし、ついでにご飯の支度をするのがいつの間にか定番化していて。
付き合ってる人がいるかと当初は危惧したこともあったけど、彼が否定したし今は少し安堵して通っているけれども。
これでいいの? 早く離れなきゃ辛くなるだけじゃないのと思う自分と、このままそばにいたい……と望む自分とでせめぎ合いが続いてた。