あなたのヒロインではないけれど
まさか仕事の話をこんな人の多い場所で明け透けにする訳にはいかない、と真湖は店長の許可を得て三人で事務所に移動した。
「それで。結実がするのは具体的にどんなお仕事なんですか?」
断るより先に、真湖が氷上さんに訊いてしまってた。だから、話すきっかけを失ったまま彼の話に耳を傾ける。
「新製品の企画について……ですね。もちろん社内には専用の部署がありますから、完全に関わる訳ではありませんが。アイデアについては常に募集されているのです。これはオフレコになりますが、近々新しいシリーズを企画する話が出てまして、一般社員は何らかの案を出す必要があるのですが。その発案に結実さんの力をお借りしたいのです」
「そんな機密をあたしたちにべらべらと喋っちゃっていいんですか?」
真湖が脅すように言えば、氷上さんははい、と笑顔で返す。
「このことは社内の人間以外は知りません。今初めてあなた方に伝えただけですし、あなた方以外に話すつもりはありませんから。もしも情報がリークされたなら、部外者ではあなた方しかあり得ません」
にっこりと人受けのする笑顔で、氷上さんは如才ないやり取りをしてきた。
「それに、今のあなた方お二人を見ていれば、信頼に値する人となりだとわかります。ですから、こうして直接お話させていただきました」