あなたのヒロインではないけれど



“行くな結実”――そのたったひと言で、馬鹿な私は愚かな決断をしてしまった。


今までどれだけ一緒に居ても、確かな言葉をくれなかった彼がちゃんと言ってくれた。真湖には呆れられたけれど、浮かれてしまったのは否定できない。


“こんな私でも少しだけは必要としてくれてるんだ”……って。


夢を、見たかった。


代用品でも、何でもいい。私が氷上さんに必要とされていたのだと。


だから、きっと。


愚かな私にバチが当たったんだと思う。


もうじきクリスマス商戦が始まるという10月の末――SS社のロビーにやって来た人がいた。





「タカアキ! 久しぶり~」


太陽のように明るく笑うそのひとは、以前と違い黒髪でなく、ブロンドに近い茶髪をふわふわに巻き、ブランドものと思われるワンピースを着て体の線を惜しげもなくさらしていたけれど。


その人懐っこい笑顔は、20年前と何も変わっていなかった。


「……友美(ゆみ)」


隣にいた氷上さんが呟いた名前に込められた感情は……私には決して向けられないもの。


――愛情。それも、最愛の。


「来ちゃった」、と笑うその人へ、彼の感情のすべてが向かっていた。




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