あなたのヒロインではないけれど
第8話~クマと公園と涙
「え、ミラージュが支店を出すの?」
いつものカフェでのお昼休憩。真湖がうんざりした顔でため息を着いた。
「そ。N県に初めての支店を作るんだって。店長からオープニングスタッフの指導を打診されたけど……行けるわけないじゃんね~」
プンスカ憤りながらオムライスを口にする真湖。彼女の気持ちは痛いほどよくわかる。
「そっかぁ……そうだよね。謙吾(けんご)さんも、やっと今の仕事が軌道に乗ってきたんだっけ?」
恋人の名前を出せば、真湖の頬がぱっと赤くなる。普段はさばさばした親友も、こんなところは女の子らしい。
可愛い友達の真湖。彼女は高校時代の先輩と付き合って6年目となる。先輩はここ半年ほど仕事がバタバタしていたけど、やっと落ち着いたとかで。最近は上手くいってるみたいだ。
クリスマスイヴにはホテルでのディナーを予約したとか漏れ聞いた。
たぶん、そこで真湖はプロポーズされるんだろうな。
羨ましい……とは思う。
私は……どれだけ願っても叶わない、ごく普通の幸せ。
せめて、その欠片だけでも欲しかった……。
でも、その道を選んだのは自分。
だから……せめて親友や大切な人たちは幸せになって欲しかった。
兄は、夏にプロポーズが成功して来年春に挙式する。真湖も来年には花嫁さんになる……。
(みんなが幸せであればいい……)
N県は、今いる地元から300kmは離れている。
私の中で、ある決意が固まりつつあった。