あなたのヒロインではないけれど





「……あ、あの美子さん。そろそろお許しくださいますでしょうか……?」


――3時間後。


未だ床に正座の刑を続行中の結城さんが、ブルブル震えながら仲田さんを懇願するように見上げる。


ネイサンさんに至っては……さっきまで苦悶の表情で身悶えてたのに。なぜか急に悟りを開いたような、ちょっと別世界に行ったように朗らかに笑ってます……早く現実に戻ってきてくださいね。


「美子さ~ん? 美子様! お願い~もうしませんから許して!」


28にもなる大の大人の男性が涙ながらに懇願……うん、見なかったことにしましょう。


「そういえば、氷上は? 昼休憩から見てないけど」

「あ~……アイツは何かアースィシリーズの営業に行ったよ」


ようやく許されて生ける屍と化した結城さんが、床に突っ伏しながら仲田さんに答えた。


「何でも古い知り合いで、アメリカから訪日したらしい。児童福祉施設を訪問してるから、アースィのPRのために同行してるってさ」


結城さんの言葉に、ズキッと胸が痛む。


訪日した知り合い……

知り合いという仲じゃない。二人は恋人だった……いいえ、もしかするとゆみ先輩と氷上さんは再会してヨリを戻したのかもしれない。


(仕方ないよね……二人は幼なじみだし気心は知れてるし。氷上さんは恋人はいないんだから……ヨリを戻そうが元サヤだろうが。彼の自由だもの)


もともと、彼と私との間には何もない。


たとえそばに居てくれと言われキスをされたところで……自惚れた訳じゃない。あれはただの……酔った過ちってものだ。


お酒が入って感情的になっただけ。


わかってる……だから。心がどれだけ痛んで息苦しくなったとしても。私の中だけの問題。氷上さんには何の関わりも責任もないんだから。


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