あなたのヒロインではないけれど



そして、氷上さんはゆみ先輩が来日して以来、時間が許される限り彼女のそばに居る。


ゆみ先輩は来日してすぐその足で児童福祉施設を訪問し、パーティーがあった帰りにSS社に立ち寄ったようで。そのまま氷上さんと再会を喜び、彼と車に乗り込み去って行った。


その際に私をチラッと見たけれど、後は無関心そうに視線を逸らしたから。気付かれてはないと思うけど。彼女が去るまでドキドキが収まらなかった。


毎日顔を見せる氷上さんにもバレてないのだから、20年近く会ってない彼女に判るとは思えないけど。万が一ということもあって警戒したけれど。案の定ゆみ先輩は私に何の関心も払わなかった。


寂しかったけれど、よかったとも思う。もしもゆみ先輩が氷上さんの恋人に戻るなら、昔馴染みの女性がそばにいるなんていい気持ちにはならないだろう。


だから、忘れていてくれて構わない。私があの時の女の子だと。


思い出されてしまったら、聡い彼女には見抜かれてしまうかも。私が、氷上さんにどうしようもなく恋をしているということを。


それだけは、絶対に知られたくはなかった。


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