あなたのヒロインではないけれど
仲田さんがタブレット端末を使い、資料を整理しながら結城さんと話し合う。
「絵本も重版が出たし、このまま問題なければアクアシリーズも社内プレゼンでOKが出そうね」
「そうだな。となれば……そろそろ北米事業部にお出ましを願うか」
北米事業部? 初めて聞く名前に興味をそそられ顔を上げると、結城さんが説明をくれた。
「SS社はグループで現地法人も持ってはいるが、一応海外事業部も存在してな。北米……つまりアメリカやカナダの市場に関する専門のチームもあるんだ」
「アースィは基本的な世界観が西洋のファンタジーでしょう? 昨今のファンタジーブームに乗じて、アースィシリーズも北米で展開しようって話が出てるの。ま、あくまでも予定だけど」
結城さんと仲田さんのしてくれた意外な話は、驚くと同時に一気にテンションを上げる効果があった。
最近気分が重くなる出来事ばかりで鬱々した気分でいたけれど、自分の考えたキャラクターが遂に海外に飛び出すなんて。
20年……
頭に思い描いた夢が。ゆみ先輩との夢が。遂に現実になろうとしてる。
……頑張ろう。
アクアシリーズで海外にも通用する商品を考えるんだ。
それはきっと、SS社の私の最後の仕事。
新しいチームも立ち上がられたし。私の役割はおしまい。
氷上さんに誘われて……悩み躊躇いながら飛び込んだ世界。ゆみ先輩の夢を叶えるため……この10ヶ月頑張ってきたけれど。とうとう夢を果たせそうだ。
後は、プロである彼らの手に委ねればいい。間違いなく大切に育て上げてくれるだろう。
辛いことも苦しいこともあったけれど。この世界に関われてよかった。心底そう思う。
(ありがとう……氷上さん)
今、ここには居ない人に。胸の中でそっと感謝をした。