あなたのヒロインではないけれど
解ってる。
私がこうして待っているのは誰にも頼まれたことじゃなくって、自分が勝手にしているんだと。だから、押し付けるつもりは全くないし期待だってしていないのだけど。
……やっぱり、寂しい。
氷上さんと一緒に囲む夕食。彼が美味しいと笑って。キャンディがテーブルに飛び乗り笑いが起きて。ぎこちない笑いだったけど私も幸せで……。
もう、あの温かな時間は過ごせないんだなあ……。
ゆみ先輩がやって来て約半月。毎日のようにマンションに来てキャンディの世話をして。夕食の用意をしていたけれど。氷上さんが日付が変わる前に帰ってくることはなかった。
夕食は念のため冷蔵庫に入れてから帰ると、翌日夕方行った時には食器が綺麗に洗われてしまわれてるから。きっと朝ごはんがわりに食べてくれてるんだと思う。
ゆみ先輩がマンションに来るようなら、もうカードキーを返して二度と行くまいと思っていたけれど。氷上さんがキャンディのお世話を疎かにしているから、どうしても気になって足を運んでしまう。
だから、ついでにといつもの習慣で夕食を作ってしまうのは。せめてなにか役立ちたい……と私の小さな自尊心。とてもつまらないプライド。
でも、もう……
どうやら、こんな小さな役割もお役御免みたいだ。
「ごめんね……キャンディ。ゆみ先輩はきっとあなたのことも大切にしてくれるから……幸せになってね」
名残惜しいけれど、もう来るのはやめよう。そう思い、痕跡を完全に消してからカードキーを玄関に置きマンションを出た。