あなたのヒロインではないけれど
「のぅ、貴明。おまえもそう思うじゃろ」
「え?」
「は!?」
仲田さんと結城さんの声が仲良くハモったけど。驚いたのは何も彼らだけでなくて……。
洋介おじいちゃんがしっかり見据えて名前を呼んだのは、確かに氷上さん。
彼は手のひらで前髪をくしゃりとかき上げつつ、大きなため息を吐いた。
「……お祖父様。なぜ、それを今ここで明かすのですか」
「別に、いいじゃろ。おまえも入社して5年目じゃからな。気の知れた人間になら明かしても構うまい」
「確かに、そうだからと言って利用するような人たちではありませんがね」
だから皆さんを選んだんです、と氷上さんが話すのを聞いて嬉しくなる。
たとえ個人的に特別な感情がなかっとしても、そうやって信頼していてくれた。それは、大きな喜びに繋がった。
「そうじゃろう。おまえの人を見る目は確かではあるからな。だが、皐月の後継者としてはまずはこの商機を制することじゃぞ」
「……わかっていますよ。一から現場で叩き上げられる機会を下さったことに感謝します」
氷上さんがそう答えたことで、彼がどうして意気込んでいたかを知った。
クリスマス商戦で結果を出して……ゆみ先輩を迎えたかったからなんだ。
だから、藁にもすがる思いで私のような人間も使おうと必死になってたんだ。
スウッと、心が冷えていった。