あなたのヒロインではないけれど
「……その時のケガと事件の衝撃から、私は一時記憶を失ってね。何もかもわからなくなってしまってたの」
上着を着込むのを手伝う私に、ゆみ先輩は「ありがとう」と笑うけど。やっぱり辛かった体験を思い出したのか、顔色がよくなかった。
「ゆみ先輩……顔色が」
「大丈夫。あなたには伝えたいことがあるからこのままで。私は明日にはまたN.Y.に戻らないといけないから」
ゆみ先輩は気丈にも話続けようとするけど、日が暮れて肌寒くなってきたし。ミケはとっくに姿を消している。だから、比較的近い私の部屋へ行く提案をしたら。驚きながらも頷いてくれた。
「このクマちゃんまだ持ってたんだ。懐かしいわね」
温かいココアを淹れて持って行くと、ゆみ先輩はにこにことクマのぬいぐるみを弄ってる。どうやら気分を直せたようでよかった、とホッとした。
テーブルに向かい合わせに座り、マカロンを出すとゆみ先輩は「ありがとういただきます」とピンク色の木苺味を選んだ。
「それで……そう。ダウンタウンで記憶をなくして、運ばれた病院で出会ったのがデイヴィッド。私の主治医で……今はフィアンセなの」
その名前を出した時のゆみ先輩は、真湖と同じで頬を染め。かわいらしい女性になってたけど。
フィアンセ……? アメリカ人のフィアンセ!?
ゆみ先輩の発言に、ショックを受けた。