あなたのヒロインではないけれど
『あ、これ……君の?』
『は、はい……』
『いけない奴らだね。ひとりにこんなことをして。困ったら、いつでも言って。ぼくでよかったら力になるから』
……春の4月。桜の舞う中……まさかと思ってた。
だけど、あの人はあの日と同じ笑顔で。成長し大人びても何一つ変わらないことに、胸の高鳴りを感じていた。
☆
「……夢……か」
目覚ましの音に起こされた私は、ベッドの上でため息を着いた。
忘れようとして忘れられなかったあの人の夢……。
短大を出て就職をして。店員として中堅となった今、忙しさから滅多に見なくなってたのに。
2年ぶりくらい……かな。
「どうして……今さら。あの人にはあのひとがいるのに」
ベッドヘッドに置いたクマのぬいぐるみを手に取ると、両手でそっと持ち上げる。
洗っても薄汚れたままのそれは、捨てられてもおかしくないほどボロボロ。
だけど、私は捨てられない。捨てられるはずもない。大切な、何より大切な思い出の宝物だから。
「結実(ゆうみ)、起きてるの? 早く支度しないと仕事遅れるわよ」
お母さんがドア越しに声を掛けてくれたから、慌てて起き上がって時計を確認した瞬間ムンクになる。
「7時15分!?ヤバい! 急がなきゃ」
そっとクマのぬいぐるみを戻すと、出勤の支度の為に浴室へ走り込んだ。