あなたのヒロインではないけれど



『あ、これ……君の?』

『は、はい……』

『いけない奴らだね。ひとりにこんなことをして。困ったら、いつでも言って。ぼくでよかったら力になるから』


……春の4月。桜の舞う中……まさかと思ってた。


だけど、あの人はあの日と同じ笑顔で。成長し大人びても何一つ変わらないことに、胸の高鳴りを感じていた。







「……夢……か」


目覚ましの音に起こされた私は、ベッドの上でため息を着いた。


忘れようとして忘れられなかったあの人の夢……。

短大を出て就職をして。店員として中堅となった今、忙しさから滅多に見なくなってたのに。


2年ぶりくらい……かな。


「どうして……今さら。あの人にはあのひとがいるのに」


ベッドヘッドに置いたクマのぬいぐるみを手に取ると、両手でそっと持ち上げる。


洗っても薄汚れたままのそれは、捨てられてもおかしくないほどボロボロ。


だけど、私は捨てられない。捨てられるはずもない。大切な、何より大切な思い出の宝物だから。


「結実(ゆうみ)、起きてるの? 早く支度しないと仕事遅れるわよ」


お母さんがドア越しに声を掛けてくれたから、慌てて起き上がって時計を確認した瞬間ムンクになる。


「7時15分!?ヤバい! 急がなきゃ」


そっとクマのぬいぐるみを戻すと、出勤の支度の為に浴室へ走り込んだ。


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