あなたのヒロインではないけれど
「……そう、12月いっぱいでこちらを辞めたいのね」
SS社の本社だと誰が聞いているかわからないから、近くのカフェで相談したのは仲田さんで。
彼女は、お誘いをあっさりとOKしてカフェに着いてきてくれた。
「そう……氷上とそんなことが。このところぎこちないと思ってたけど。やっぱりあいつが原因だったのね」
シガレットチョコをくわえた仲田さんは、それをホットココアに突っ込むと、更にマシュマロを入れてかき混ぜた。
「すみません……わがままを言って」
「いい。鵜野さんは十分に役割を果たしたと私は思う。だから、後ろめたさを感じる必要なんかこれっぽっちもないでしょう」
彼女らしいさっぱりした物言いに、ほんの少しだけ救われた気になれた。
「総務人事部に掛け合って、特別にボーナスを出させるわ。せめてもの餞(はなむけ)にね」
「え、そんな! 大したことしてませんのにボーナスなんて……」
「初めて独り暮らしするなら、何かと物入りでしょう。なら、ありがたく受け取りなさい。私たちが出来ることは少ないから……せめてもの気持ちよ」
ふう、と仲田さんはココアへ息を吹きかけた。
「安心して。氷上のバカだけじゃなく、ポロッと漏らしそうな男連中にも言わないでおく。だから、何にも心配しなくていいわ」
私の気持ちを理解してくれた仲田さんの心遣いが嬉しくて、ありがとうを繰り返すしかなかった。