あなたのヒロインではないけれど





「これとこれと……あ、これどうしよう」


ワードローブの中にある服を選別するのも迷う。全部一度には持っていけない。 制服はもちろんだけど、春物は必要だし……。


「とりあえず最低限必要なものだけ選べば? 残りはまた送ったげるから」


服をあるだけ広げて迷ってる私に、さくらお姉ちゃんがそう提案してくれた。


今は、転勤のための引っ越しの荷造り中。N県では寮としてアパートが貸与されるけど。家具と家電付きの1DKだから、収納スペースが限られる。


「そ、そうだね。じゃあとりあえず制服と冬物だけ持って行く」

「そうしな。N県はこっちより雪深いし、風邪引いちゃいかんで防寒具は多めに持っていきなよ」

「うん」


最初は転勤を反対していたお姉ちゃんも、私の意志が固いと知ると仕方ないと折れてくれた。ただ、月に一度は帰って来るか家族が様子を見に行くよ! との条件だけは飲まされたけど。


あと、「健太兄きの結婚式にはちゃんと帰って来ないと。引っ張り出しに行くからね!」との約束はしっかりさせられた。


もちろん、兄の結婚式はちゃんと出席するつもり。何があったって。


私をずっと可愛がってくれた兄の大切な晴れの日だから。


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