あなたのヒロインではないけれど
「結実、寝ないの?」
「うん……」
深夜になって様子を見に来たお姉ちゃんは、手を動かす私にココアを淹れてきてくれた。
「それ、必要ないのにまだ作るの? SS社の仕事はもう終わるんでしょう」
「そうだけど……持てるアイデアだけでも残していきたいんだ」
「……そっか」
お姉ちゃんはクッションを抱きしめたまま、私にココアを飲みなさいと勧めてくれる。ひと休みのつもりで「ありがとう」マグカップを持った私に、お姉ちゃんから意外なひと言が放たれた。
「……もしかすると……転勤は氷上さんのことがあって?」
「!」
思わず動揺してマグカップを落としかけた私に、お姉ちゃんは「やっぱり」と呟いた。
「……いきなりごめんね。だけど……あんたがマンションから出てくるの見かけたことがあるの」
「…………」
それはいつ? と訊くのが怖い。もしやお姉ちゃんが何もかも知っていたのだとしたら……。
お姉ちゃんはカタカタと震える私の肩に、ハーフケットを掛けてそのまま抱き寄せてくれた。
「今年花見に行ったあんたの帰りが遅かった日があったでしょ? 心配して捜した時に偶然見ちゃったの。
その時は一度きりだったから特に問題にならなかったけど……あんた、7月辺りからまた度々遅くなってたでしょう。だから、悪いとは思ったけど色々と周りから話を聞いてみたの」