あなたのヒロインではないけれど
なるべく声を掛けないように……それでも必要な時は“彼女”のしゃべり方を意識した。
私では……あなたの支えになれないから。
時折、うわごとで名前を呼ぶ……「ゆ……み」と。
どれだけ私が恋して尽くしたところで、貴明さんの頭の中も心の中もゆみ先輩だけ。私はほんの片隅すら置いてもらえない……。
大好きな人のお世話出来て幸せなのに、絶望を味わう思いだった。
クリスマスイヴの夜から3日……27日の夜になって、ようやく熱が下がってほっとした。
洋平おじいちゃんのおかげでお医者様の往診も受けられ、渡されたお薬で熱も咳もかなり落ち着いてきてる。
「37.5℃……そろそろいいかな」
耳で計れる電子体温計の数字を確認し、ほっと息を吐く。
氷上さんは深く眠っているようで、ずいぶん安らかな寝息が聞こえる。
ここ2、3日は食べられる量の雑炊と果物と惣菜は用意した。冷凍庫にも作りおきのおかずとカレーやご飯を冷凍してある。
キャンディのご飯も餌皿にたっぷり入れてお水も取り替えた。
「……もう、いいかな。私……帰ります……さよなら」
彼の額に指で触れて、そう呟いたのだけど。
いつの間にか、起きていた氷上さんに手を掴まれてた。