あなたのヒロインではないけれど
いきなり腕を引かれたかと思うと、あっという間に彼の腕の中に抱きしめられた。
「……行くな……」
「……貴明さ……」
「行くな……」
懇願するように、繰り返し繰り返し行くなという。今は熱は高くない……もしかして……と私の中で微かな期待がわき上がる。
貴明さんが……私だと分かっていてそう言ってくれているの? もしもそうなら……と。愚かにも胸をときめかせてしまった。
だから……きっと。天罰だったんだ。
「行くな……ゆ……み」
貴明さんが、あくまでもゆみ先輩の名前を呼んだのは――。
どこまでいっても、やっぱり私はゆみ先輩に敵うはずがなくて。
張り裂けそうな絶望が胸を覆うのに……氷上さんが……求めるあまりに……私は馬鹿な選択をしてしまった。