あなたのヒロインではないけれど
最終話~桜と新しいぬいぐるみ
ミラージュN支店にて。ディスプレイを手伝ってくれる女の子達がはしゃいだ声を上げる。
「うわぁ、アースィの新しいシリーズ、めっちゃ可愛いですね! このストラップ欲しくなっちゃうなぁ」
「ホント、ホント。だけど今月ピンチなんだよね~。ね、結実さん。社割で半額とかになりません?」
アースィの冒険の舞台はどんどん広がって、今度のテーマはアジア系。若い女の子には普段馴染みがない、近くて遠いアジア圏のエキゾチックさが逆に新鮮なのかも。
(これだけ次々と新しいシリーズを生み出すなんて。みんな頑張ってくれているんだな)
懐かしい顔ぶれを思い出すと口元がほころぶ。それを良いように勘違いしたか、アルバイトの女の子達は私に頼み込んできた。
「結実さん、お願いしますよ~! 副店長の権限で、どうかおひとつ。
新しいシリーズをみんなにPRするためにも」
両手を合わせてまで頼み込まれたら、仕方ないなあと思う私も大概甘いかもしれない。けれど、彼女が通う大学は女子の割合が高くて、アースィシリーズが静かなブームとのことだから。全く発売されてないものが目につけばいい宣伝になる。
「仕方ないなあ……じゃあ、一つずつなら半額でいいから」
「やった! さすが結実副店長。ウチらの心強い味方だ~」
パッと顔を輝かせたバイトちゃん達が、早速目当てのものを物色し始める。
そんな素直さは眩しいほどで、うらやましいとは思うけど。自分がやって可愛い年じゃない。
女子大生や女子高生のアルバイトちゃんたちが次々とお目当ての品を持ってきたけれど……数が多すぎた。
「こら、一人一つって言ったでしょう。どさくさ紛れに違うシリーズも持ってこないの!」
私が突っ込むと、ばつが悪そうな顔をしながら渋々戻してきたけど。やっぱりきっちりと区別はつけないと……と強く思った。