あなたのヒロインではないけれど



バンッ! と突然大きな音が響いて、ビクッと体が揺れた。驚いてそちらを見れば。


ドアを開いたのは、ずぶ濡れで泥まみれのあの男の子だった。


「たかあき! 汚いまま部屋に入らないでよ」

「…………」


たかあきと呼ばれた男の子は、女の子の抗議も聞こえないのかずかずかと近づいてくる。その様子が何だか怒ってるように見えて、ビクビクした私に彼はスッと何かを差し出す。


「ほら!」

「………?」

「これ、おまえんだろ?」


怖くて目をつぶっていた私だけど、もしやと思って恐る恐る目を開ければ。


目の前にあったのは、泥まみれのクマのぬいぐるみだった。


「……あ」


思わず手を伸ばそうとしたけど、たかあきくんは怒るんじゃないか? そう思って怖くて取れないでいると。彼から私の手に握らせてくれた。


「大事なもんなんだろ? なら、もう無くしちゃダメだぞ」


驚いて目を見開いた私に、たかあきくんはニカッと笑ってくれた。


「男なんてみんな単純なガキの集まりだからさ。バカだな~って腹の中で笑ってやりゃいいんだよ!」


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