あなたのヒロインではないけれど
出勤した勤務先の雑貨店は、今日も朝から賑やかです。
「おっはよ、結実! 今日も頑張ろう~」
「きゅう」
思わず妙な声を出すのも仕方ないですよ。
だって、一回りは体が大きな人間から抱き潰されるんですから。
「真湖(まこ)、いつも言ってるでしょ! 朝から抱きしめないでって」
「ん~そりゃ無理だ! だって、結実ってばちっちゃくてカワイイんだもんな~ほらほら」
私が文句を言おうがどこ吹く風の強者(つわもの)は、柏木 真湖(かしわぎ まこ)。
ショートカットでコンサバ系の服を好む同い年の友達で、学生時代は運動部だったから170センチ近い長身でスタイルがいい。身長が152センチしかなく小柄な私にはうらやましい限り。
というか、ちっちゃくてカワイイって。私が一番言われたくないことなのに。
私がむくれると、真湖はヨシヨシと頭を撫でてきた。
「あはは、拗ねるな。拗ねるな。結実はそのまま、ありのままでいいんだからさ!」
けど、と真湖はいきなり眉を寄せた。
「結実、なんかあった?」
「え?」
真湖の指摘に、ドキッと心臓が跳ねる。
「後で聞かせてもらうよ? あんた、す~ぐ自分の中だけで処理しようとするんだから」
耳打ちした真湖の言葉に何も言えずにいると、開店の合図になるBGMが流れてきて。急いでレジへ向かった。