あなたのヒロインではないけれど
驚いて氷上さんを見上げると、彼は真剣な眼差しで。それに耐えきれなくてうつむくと、彼はそっと私の手に触れてくる。
ドキン、と心臓が跳ねて、そのまま全身が固まった。
「柏木さんからお聞きしました、貴女の夢を。僭越ながら……この提案がそれを叶えるきっかけになるかもしれません。
あなたにはその力があると思いますから、私も声をお掛けしました。どうか……お力を貸していただけませんか?」
……夢。
私の、夢。
(できるの……かな? 私の夢を叶えることが……)
正直、疑心暗鬼というのが率直な気持ち。私がこの業界で通用するものなんて、何一つ持ってはいない。あくまで素人で、経験の長さから言えば素人に毛が生えたくらいだろう。
どうして、氷上さんはそんなに熱心に私を誘おうとするんだろう?
でも……。
彼の手の、熱さが。私の思考を止めてしまう。ぬくもりが心地よくて、めまいにも似た甘い陶酔がわき起こる。
(……ダメだ、これ以上近づいたら……)
そう思うのに。皐月先輩と同じ、微笑みを見せられてしまえば。
そして、もしかすると。“ゆみちゃん”の夢を実現するきっかけになるかもしれない……小学生から抱いてきた夢が、叶うかもしれないチャンスが目の前にある。
躊躇ばかり、していてはダメだ。
いつもいつも私は恐れ震えるばかりで。そのために逃してきたことはどれだけあった?
今こそ、このチャンスを掴まないと。私は一生ダメなままかもしれない。
コウノトリが再び舞うように。
私も、何かを成し遂げられたら。
だから、私は。
自分から、氷上さんの手に手のひらを掴んだ。
自分を、変えるために。
「よろしく……お願いします」