あなたのヒロインではないけれど
「おはよう、結実ちゃん。今日例のやつ持ってきてくれた?」
「あ、店長おはようございます。はい、出来上がりました」
私はポケットに入れた巾着袋からいそいそと取り出して、店長の手に渡す。
昨夜出来上がったばかりのビーズアクセサリーは、桜をモチーフにしたもの。これから春を迎えるから華やかなものが欲しい、と店長のつぶやきを聞いて自ら作ると申し出たものだった。
自分に才能は無いとはわかっていても、休日や夜にはコツコツと作品を作ってる。
それは私の唯一の趣味であり、自分を表せる手段だから。
接客業をしているのに、私はあまり話上手でないし内気で人見知りしやすい。直したいとは思っているのだけど、努力してもなかなか難しかった。
「うん、いいんじゃない。これ500円で売るわ」
「えっ!?」
店長から思いがけず高い評価をいただき、耳を疑った。今までせいぜい50円とかだったのに、一気に上がって驚く。
「い、いいんですか?」
「うん、あなたの腕が上がった証拠よ。このチャームの桜の繊細さ、見事だわ。まだ仕上げに甘いところはあるけどね」
にっこり笑う一美(ひとみ)店長は私の母と同じくらいの年齢で、私にとってもう一人のお母さんと言えるくらいの存在。だから、そんな人から評価されたことがとても嬉しかった。