あなたのヒロインではないけれど



「動物園でデートしたんでしょ!? なら、ちゃんとプレゼントしなさいよ」


鼻先をつつかれて、へ? と間抜けな声を出してしまいました。


「氷上さんとデートなんて……してないよ? あの時みんなもいたし……」


そりゃあ、二人で池を眺めながら歩いたり、ゾウに餌をあげたり鳥のトンネルを抜けたり。ジュースを飲んだりしたけど。あれをデートと言うなんて……あり得ないし、氷上さんに迷惑になってしまうよ。


あれは、ただ仕事の延長で……氷上さんにとっては何も特別じゃない。


「氷上さんが気遣ってくれただけ……あの人は優しいから。私じゃなくても同じようにしたよ、きっと」


私がそう話せば、なぜか真湖は額に手を当てて盛大なため息を着いた。


「……なんでそんなにネガティブになるのか……あんただからわかるけど。
でも! 義理でも良いからちゃんとチョコを用意しなさい。初の打ち合わせ日、ちょうどバレンタインなんでしょう。なら、コミュニケーションを取るためにもきちんと準備をしておかないと」


真湖が言うことは確かにもっともだ。私はどうもそういった社交には疎いから、彼女のアドバイスに素直に従った方がいい。


「う……うん、わかった。チョコレート……用意する。真湖、ありがとう」

「いいえ、どういたしまして~」


軽く返してきた真湖が、どこか嬉しげに笑ったように見えたのはきっと気のせい……のはず。



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