あなたのヒロインではないけれど





「結実ちゃん、せっかく真湖ちゃんに綺麗にしてもらったんだから。うつむいてちゃわからないでしょ。ほら、笑顔、笑顔!」

「はい……」


一美店長にまで暗に普段の手抜きを揶揄されてしまいました。それくらい、私はナチュラルという名の手抜き。ほぼスッピンに近いファンデにつけてるかわからないくらいの薄い口紅……後は眉を整えるくらいだからな。


お昼休みにランチを30分で済ませ、残り30分掛けて真湖は私の顔を思う存分に弄り倒した。


私が持ってないメイク用品をポーチから取り出して、ああでもないこうでもないといろいろ試して、作り上げたのが別人としか思えない顔。後ろで束ねただけの髪まで携帯用のヘアアイロンで巻かれてます。


しっかりメイクしたのは成人式の時と入社式の時くらいの私からすれば、すごく違和感があるし恥ずかしすぎて、とても顔があげられない。


でも、お客様と話す時に俯いてちゃ失礼だよね、と思い切って顔を上げると。商品の鏡に写った自分の顔に頬が熱くなる。

しっかりと目が強調されて……美人とは言えないまでも、多少はマシになった顔が。これが自分なのかと違和感を感じながらも、不思議に思う。


(もしかすると家族でもわからないかも……って。それはないよね)


完全な別人とはいえないけど、学生時代のクラスメートとか長年会ってない人なら。パッと見わからないかもしれないな。


家族を騙せたら楽しいかもなんて。少しイタズラ心がわき上がり、何だかちょっぴりわくわくしてきた。
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