あなたのヒロインではないけれど
第4話~キスと始まり
「この色がいいかな……」
初めて、季節を意識してみた。春めいた陽射しを感じて、淡い桜色のパステルカラー。
それを身につけたところで、氷上さんが私を見ることはないだろうけど。 それでも、彼の目に映る私が少しでも可愛くなれば……なんて。そんな風に思ってた。
「結実、あなた近ごろずいぶんオシャレに気を遣うようになってきたじゃない」
慌ただしいはずの朝食の席でそんなふうに言われて、ドキンと心臓が跳ねた。
常に寝坊気味の姉はその日珍しく早起きで、余裕があるせいか先に席に着いていたからか。いつもはしない話を振ってきた。
「年明けには“メイクして”って泣きついて来たのに。最近は自分でメイクしてるんでしょ? 最初は見れたものでなかったけど、今はまあまあ頑張れてるみたいね」
「そ……そうかな?」
「そ。ま、きっかけは何であれ、やっと妹がオシャレに目覚めたのは喜ばしいことだわ」
真湖に似てさっぱりした性格の姉は、あんまり執拗に問い詰めたりしない。私が話したくないと察したことは、すぐに打ち切ってくれる。 そんな姉はダイニングテーブルの椅子から立ち上がると、食パンの袋を手にした。
「さ、可愛い妹の為にお姉さまが特別にパンでも焼いて差し上げましょうか。食パン2枚でいい?」
「あ、ありがとう……でも、2枚も食べられないよ」
「なに言ってんの~あんた細すぎだから、もっと肉をつけなきゃ! 男に好いてもらえないよ」
姉の発言に、ドキンと心臓が跳ねた。