あなたのヒロインではないけれど
「うん……」
私の好きな人なんて……あの人だけ。
初恋で、唯一好きになった人。
けど、私は彼の目にも入るはずもなかった。だって彼の隣には常に連れ添う彼女がいたから……。
2つ上の彼は今は25歳。きっと彼女と結婚している。子どもだっているかもしれない。
「マジで居ないの?……まさか……まだ、忘れられない?」
周りを気にしてか声を潜めた真湖に、私は俯いて無言で答えた。彼女だけは、唯一私の初恋の苦しみを知ってる。
家族や……年の近い姉でさえ打ち明けなかった、私の唯一の。そして辛く苦しい恋。決して叶うはずがないそれを、真湖だけは解って励まし慰めてくれた。
忘れたふりをしても、似た後ろ姿を見るだけで目で追ってしまう。毎日必死に仕事をして忙しくしていないと、またすぐに思い出してしまう。
実は、桜のチャームをこれ以上ないほど込んで作り上げたのも、何かに夢中にならないと怖かったから。
なのに今朝、久しぶりに彼の夢を見てしまったなんて。
決して思い出したくない苦しみだったのに。どうして? と自分を責めていた時――来客を知らせるチャイムが鳴って、反射的にそちらに目を向けた。
ドアを開いてやって来たのは、ダークブルーのスーツを着た20代後半くらいの男性だった。