男装少女争・奪・戦 ~男子校とか無理だから!!~ 【完】
最低最低最低最低

俺は唇をゴシゴシと拭う。

最悪だ……

自室に戻った俺は、ベッドに飛び込んだ。

あそこまで非道い人とは思ってなかった。

パチン

突然電気が点き

明るくなる

「……沙耶香?」

俺は応えない。

応えたくない。

泣いてたのが

ばれる

祐一郎には

知られたくない。

「沙耶香!」

「……」

「どうした?」

言いたい

言いたくない

聞いて欲しい

聞いて欲しくない

二つの気持ちが

心の中で争う。

「出て来いよ!」

バッ

布団を引き剥がされる。

「……泣いてるのか?」

俺は無言で首を振る。

「嘘つくな
どうしたんだ?」

俺はもう一度首を振る。

言わない

言っちゃいけない

「言え」

「だめ……」

「言えよ」

「……か、会長に」

俺の口は勝手に動いた。

声が震える。

だけど

動き始めた口は止まらない。

「……キス…された……」

「なッ
それは……お前が女だと知ってなのか?」

「たぶん……知らない」

でも

それでも

俺はまた唇を拭った。

あの感触を忘れられるように

皮が剥けて、血が出る。

それでよかった

痛みできっと

忘れられる。

「バカ!
何やってんだ!」

「だって……だってぇ……」

「それだけなんだろ!
キスなんて、大したことじゃねぇ!
やめろ!」

「俺にとってはッ
大したことじゃなくない!」

そのくらい

分かってよ……

「大したことじゃねぇ」

「祐一郎にとってはッどうでもいいものだと思うけどッ
俺にとってはッ」

大切なんだ……

「……どうでもいいわけねぇだろ」

え?

体がグッと引き寄せられる

「ーーーーッ」

今のは……

「祐一…郎……?」

「ほら
大したことじゃねぇだろ?」

顔が熱い……

俺の顔……

赤くなってるんだろう……

祐一郎に…キス……された?

でも……

なぜか

俺はそれを

嫌だとは思わなかった。

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